東京地方裁判所 昭和51年(ワ)6334号・昭52年(ワ)11786号 判決
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【判旨】
一被告協会が昭和四七年一月二六日労働大臣の許可を得て設立された「勤労者およびその家族に体育、文化、娯楽の場を提供するため、その施設を建設し、低廉な料金で利用に供することにより、それら利用者の身心の練成と福祉の増進に寄与することを目的」(寄付行為第三条)とする財団法人であり、この目的を達成するために、「勤労者共同の使用に供するため、体育施設を主としてその他娯楽文化機関等を含む付帯設備を有する総合グランドの建設および運営管理」その他右の目的を達成するために必要な事業を行う(寄付行為第四条)ものであつたこと、被告協会は、その事業の一つとして国民ゴルフ場を建設することを計画したこと、被告東は被告協会の理事長、被告新原は専務理事、被告森岡、同満園はいずれも理事の職にあつたことは、当事者間に争いがない。
二<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
1 被告協会は、前記一記載の目的のために昭和四七年設立されたものであるが、その設立以降に開設した施設は奥霧ケ峰の卓山山荘一か所であつたため、昭和四九年ころには、協会会員の中から協会の活動に対する苦情や各種施設開設への要望が高まり、協会設立の当初からの専務理事兼事務局長であつた被告新原安郎は、これら会員の要望に対し何らかの対策を講じなければならないと強く感じ、同年一一月ころ会員が安い料金でプレーできる国民ゴルフ場の建設を計画し、これを被告協会の昭和五〇年度の事業とすることとした。このため、被告新原は、昭和四九年一一月ころ、ゴルフ場建設関係の会社に勤務したことがありゴルフ会員募集の代行業等をしていた訴外白沢立志を被告協会の嘱託として採用し、同人とともにゴルフ場を開設するについての調査、情報収集等をし、昭和五〇年二月一七日開催の被告協会の常務会に国民ゴルフ場建設に関する議題を提案した。同常務会の出席者は、理事長被告東、専務理事被告新原、理事被告森岡、同満園、事業部長兼経理部長植松二三、嘱託白沢であり、「国民ゴルフ場」建設要綱、「国民ゴルフ場」建設実施要綱案が配付され、被告新原から、寄付行為改正(寄付行為第四条第一号に「及びゴルフ場」の文字を加え、ゴルフ場の建設及び運営管理を被告協会が行う事業として明示する。)、職制改革(国民ゴルフ場本部設置)、建設予定地の選定(北埼玉地区、中伊豆地区、北横浜地区、南九州地区)、第一着手は南九州プロジエクトすること(南九州国民ゴルフ場、総工費二一億円、建設着工時予定昭和五〇年度春、開業日昭和五一年度秋)、通常会員募集とゴルフ場会員募集の関連性(通常会員を優先的にゴルフ場会員とする。)の件等について説明があり、被告森岡、同満園のように出席理事のうちには協会の財政状態からその実現を危惧する者もあったが、結局、出席理事全員が右議題について承認を与えた。被告新原は、出席理事以外の理事については持廻りにより、その承認を得た。
2 被告新原は、右の承認に基づき、同年二月ころから、国民ゴルフ場本部を設置して、同被告が責任者となり,白沢を同本部主任とし、職員を増員した。
同本部の事業内容は、前記「国民ゴルフ場」建設実施要綱によると、(1)国民ゴルフ場の企画、調査、建設に関する事項、(2)国民ゴルフ場の収支に関する事項、(3)国民ゴルフ場会員の募集に関する事項、(4)国民ゴルフ場運営機構の監督、指導及び会計監査に関する事項であり、同本部と協会本部とは独立採算制をとり別会計とした。協会本部の経理責任者は植松二三であり、ゴルフ場本部の経理責任者は被告新原が担当した。
被告新原は、国民ゴルフ場建設に要する費用は、ゴルフ場会員を募集しその入会金でまかない、必要に応じ建設業者等から借入をすることを考えていた。このことは、前記実施要綱の(二)建設資金の項に、「(1)「国民ゴルフ場」会員より入会金を勤労者福祉協会機構内に設置する国民ゴルフ場本部にプールしその資金を以て建設費に充当する。(2)必要により右の建設資金は立替工事等による資金借入を行ない。之をプール資金より償却する。」と明記されており、右植松や白沢も当然のこととして認識していた。また、右の入会金については、前記実施要綱の(四)に、「(1)入会金は原則として一口、二、〇〇〇千円(一口弐名使用)以内とし地域的に多少の減額を必要とする場合のみ例外金額を以てする。」とその額の上限が定められていた。
被告新原は、ゴルフ人口の増加という一般的な傾向と国民ゴルフ場建設の構想が明らかにされるや各地から誘致の希望や引合が寄せられたことから、国民ゴルフ場建設の実現に自信を持ち、特に、前記常務会の席上で説明した南九州のゴルフ場については、その建設につき建設業者がすでに県の認可を得ており、これを被告協会の名義に認可換することは容易であり早期に実現するものと判断し、その実現のため鹿児島県庁に働きかけを行うとともに、この認可換があれば会員募集に進みたいと考え、会員募集のために必要な機関を被告協会とは別人格の組織として設けることとし、白沢の紹介により知つたゴルフ会員券売買業を営む会社の社員である訴外北村信也に国民ゴルフ場の会員募集に関する業務を将来依頼する旨を述べ、これを承諾した北村及び同人が会員募集業務に従事させるため同人の費用で雇傭した従業員に対し、被告協会の目的、事業内容等の講習を行ない、白沢や北村らに、国民ゴルフ場の会員募集の準備作業として従来からの協会会員に国民ゴルフ場建設の趣旨を説明させることとし、北村らが被告協会の事務所内で活動することを認めていた。
被告協会は、その機関紙「労福協通信」昭和五〇年四月一八日号に、「尚、当協会がこの度、企業の皆様、及び勤労者を対象としました国民ゴルフ場の建設計画を推進致しております。新入会されますと、従業員の方はもちろんのこと、誰方でも御利用載ける仕組みになつております。会員の方々には特別予約の特典もございますが、詳しいことは、係員がお伺い致しますので、とりあえず、事業計画書を添付致しました。御希望の方は、御一報下さい。」との記事を掲載し、これを協会の会員等に配布した。添付された事業計画書には被告協会の理事長被告東龍太郎の「御挨拶」と題する文章が掲げられ、国民ゴルフ場建設計画の趣意が述べられ、国民ゴルフ場の現在計画推進中のものとして、中伊豆地区、北埼玉利根川地区、北横浜地区、南九州地区各一が記載され、これらはいずれも昭和五一年度完成予定と記載されている。また、同事業計画書には、「国民ゴルフ場」会員規則が掲載されており、その「第二章会員」の章の第四条には、「会員は勤労者福祉協会のGGN事業に協賛して所定の入会手続を完了したものをいう。」と(GGNとは国民ゴルフ場の略称)(第三章入会と退会」の章の第六条には、「GGNの入会は所定の手続で申込みGGN委員会の承認を経て、GGN委員会の通知があつてから一〇日以内に所定の会員資格保証金を払込み会員資格を取得する。会員が所定の資格保証金の払込み確認後、遅滞なく会員証書を発行する。」と、第八条には、「会員資格保証金は、GGN本部に預託し、GGNの事業費に充当する。」等と各規定されていた。
3 国民ゴルフ場本部の主任であつた前記白沢は、昭和五〇年二月ころ、会員募集の際用いる会員資格保証書の用紙の案を作成し、被告新原にこれを示して、これを印刷に付した。印刷された会員資格保証書の用紙は、その表面上部に「国民ゴルフ場会員資格証書」の文字が二段に横書され、その下に「金壱百弐拾萬圓」と金額が表示され、番号欄、氏名欄、発行年月日欄が設けられ、その下に、「本証券は当協会の規程に基き所定の金員を予託したことを証するものである」と記載され、発行者を示す文字として、「財団法人勤労者福祉協会 理事長東龍太郎」と掲記され、右「東龍太郎」の文字は、被告協会の一般会員証書に用いるため被告東龍太郎が筆書きした字体が用いられていた。
4 被告協会の財政状態は、遅くとも昭和四九年春ころには悪化しており、昭和五〇年一月ころには、手形ブローカーが出入し、同年二月には、被告協会が土浦郊外に設置しようとした施設開設計画が用地売収資金の不足で中止となり、その金銭的解決に苦慮しており、同年三月から四月には、北村信也から数回にわけて国民ゴルフ場本部が約一〇〇〇万円を借受け、これを被告協会の運営費等に費消しており、その収支は累計的に赤字であつた。
5 前記白沢は、右のような被告協会の財政状態の下で、前記2のとおり南九州のゴルフ場についてはその建設着工が早期に実現できる見通しと聞いており、この建設費用はゴルフ会員の入会金でまかなうと予定されており、入会金を建設費用に充てるため工事着工前に会員を募集することは一般の企業においても行なわれていることで当然と考えていたことから、被告新原から被告協会の一般会員に国民ゴルフ場建設の趣旨を説明するよう命じられたことのうちには、一般会員にはその特典として特別予約として入会を認め、入会金を受領することも含むと判断し、北村にもこの趣旨を話した。
北村は、その会員募集業務を行う機関にワーカーズアミユーズメントクラブとの名称(略称ワツク)を付し、被告新原から依頼された国民ゴルフ場建設の趣旨説明を行い、その際、白沢や植松の了承の下に、「財団法人勤労者福祉協会弘報会員部主任」の肩書のついた名刺を使用した。そして、昭和五〇年三月二〇日、原告光村図書出版株式会社から入会の申込を受け、同日、二口分の入会保証金として二四〇万円を受領した。
同年四月ころ、北村から被告協会に対する資金の返済を求められた白沢は、右会員資格保証書三〇枚を右貸金債務に対する代物弁済名義で北村に交付した。交付された右保証書には、「財団法人勤労者福祉協会印」の角印と理事長東龍太郎の名下には「財団法人勤労者福祉協会理事長印」の丸印による印影が顕出されていた。
北村又は北村から依頼を受けた野田敏江は、同年四月二二日、原告益田洋子から入会の申込を受けて入会保証金一二〇万円を、同年五月三日、同様に、原告樋口貞司から四八〇万円を、同月一九日、原告滝沢宏彦から二四〇万円を、同二一日、原告明石光雄から一二〇万円を、同月二六日、原告児玉淑子から一二〇万円を、同月三一日、原告新井幸一から一二〇万円を受領し、各申込口数(一口一二〇万円)に応じた枚数の右会員資格保証書を交付した。また、前記原告光村図書出版株式会社に対して、同会員資格保証書二枚を交付した。
同年四月三〇日、かねて北村から国民ゴルフ場会員募集の話を聞いた被告協会の一般会員であつた原告金子定利が被告協会の道玄坂の事務所を訪ね、植松、白沢及び北村から説明を受け、国民ゴルフ場会員に入会の申込をし、同日、六〇万円を支払い、同年七月二六日までに残金六〇万円を支払い、被告協会から、同日付の「GGN入会金として受領致しました。」と明記された正規の領収証を受領した。
6 一方、昭和五〇年四月初めころ、被告協会は、その主務官庁である労働省に対し、右国民ゴルフ場建設を含む昭和五〇年度の事業計画案を提出し、同月一六日、被告安原が労働省係官に対し説明を行つたが、五月一二日ころ、労働省側は、公益法人として会員制度を設けることが公益性に反するおそれがあること、資金的な見通しが非常に困難であることの二点で国民ゴルフ場建設案に対し承諾を拒み、その中止を強く要望し、さらに、その後、被告新原が他の理事に語ることなく考えた国民ゴルフ場の運営を目的とする別会社を作る案に対しても難色を示し同年七月には、中止勧告を出した。
このように同年五月一二日ころには労働省側の反対の意向が明らかであるのに、被告新原は、このことを被告協会内部には明らかにせず、当時すでに南九州国民ゴルフ場建設案は実現の可能性がなくなつていたことから、長野県伊那郡平谷村を候補地とする計画を進め、同年五月一九日、被告協会を代理し、総合芝生株式会社との間で、同社に対し、平谷村のゴルフ場の芝生造成等工事一式を代金三億五〇〇〇万円で請負せる旨の契約を締結し、着手金支払のため被告協会振出の金額一二五〇万円、満期同年九月三〇日の約束手形を交付し、同社から協力金その他の名目で合計一二〇〇万円を数回に分けて受領し、これを国民ゴルフ場本部の会計へ入金し、被告協会の運営費等に費消した。同年六月ころには、柿崎工業からも同様の名目で約一一〇〇万円を受領した。右各会社から協力金名目で金員を受領する際、被告新原は、これを将来ゴルフ会員券に替えるものであることを明言している。
被告協会は、同年六月第一回の手形不渡を出したが、その後である同年八月九日開催の臨時常務会において、理事長被告東、専務理事被告新原、理事被告森岡、同満園、理事伊藤貞逸が出席し、「多度国民ゴルフ場(仮名)の設計ならびに関連事務につき被告協会とヤハギ緑化株式会社との委託契約に関する件」につき被告新原の説明を受けて審議し、契約案を可決した。
被告協会は、同年九月二七日、二回目の手形不渡を出し、負債総額約四億二〇〇〇万円の決済ができないまま事実上倒産状態となり、同年一〇月には、事務所も閉鎖され、すべての業務は中断され、現在に至つている。
三右二で認定した事実によると、被告協会は、その機関紙「労福協通信」昭和五〇年四月一八日号及びこれに添付した「国民ゴルフ場事業計画書」の配付や白沢及び北村に命じてさせた国民ゴルフ場建設の趣旨説明において、国民ゴルフ場への入会又は入会の予約ができる旨を表示していることが明らかであり、入会希望者から将来国民ゴルフ場が開設されるとき会員資格保証金に充当される金員を受領することを承認していたものと認められる。このことは、前記認定のとおり、被告新原が被告協会を代理して、総合芝生株式会社や柿崎工業から協力金名下に将来会員券に替えられるものであることを明示して金員を受領している事実から明らかである。そして、国民ゴルフ場が現実に開設されていない時点において、将来会員資格保証金に振替えるものとして協力金名下に金員を受領することと、入会金名下に会員資格保証書を交付して金員を受領することとの間には、実質的に何ら差異はなく、ともに、国民ゴルフ場開設の際、その金員を支払つた者を正式の会員として取扱い、右金員は会員資格保証金に充てられることになるのであるから、前記認定の事情の下において北村信也には、入会金名下に右の趣旨で被告協会のため第三者から金員を受領する権限を有していたものというべきであり、従つて、原告らと被告協会の間には、国民ゴルフ場開設の際には会員資格保証金に充てられるべき金員の寄託契約が成立したものと認められる。
2 右二で認定した国民ゴルフ場の建設計画案樹立の段階からその破綻に至る経緯に照らせば、すでに昭和五〇年二月一七日開催の常務会において被告森岡や被告満園が協会の財政状態からその実現に危惧を抱いたように、資金的に到底無理であり、客観的に見るとき、その実現の可能性はほとんどなかつたといつてよく、労働省係官が当初の案を検討するや、直ちにこれに難色を示し、強く中止を勧告したことは当然であつたと認められる。
しかるに、被告新原は、右の計画の実現を安易に信じ、前記二で認定したように無理に計画を推進し、被告東、同森岡、同満園は、被告協会の常務会を構成する理事として、この計画を可決し、その推進を承認し、その事務の遂行を被告新原に一任したうえ、被告新原が主務官庁の中止の要望にもかかわらず次々と無理な計画を立てては失敗していくことに十分な監督をなさずして放置し、ついには、被告協会が多額の負債を決済できず倒産し、その事業のすべてが中断される結果に終らしめたことは、いずれも公益法人である被告協会の理事長又は理事としてとるべき善良な管理者としての注意を怠り、その義務に違反したものといわざるをえない。原告らが、被告協会の倒産により、国民ゴルフ場入会金名下に被告協会に支払つた各金員相当の損害を被つたことは明らかであり、この損害は、右被告らの共同の不法行為と相当因果関係のある損害と認めることができる。
3 被告協会の前記寄付行為第三条及び第四条によれば、国民ゴルフ場の建設及び運営管理は、寄付行為第四条第一号に該当する事業であると認められ、従つて、原告らの右損害は、理事がその職務を行うにつきなした不法行為に基くものということができる。<以下、省略>
(牧野利秋)